第4回目の名誉団員紹介は、島根を舞台に映画を撮り続ける出雲市出身の映画監督錦織良成さんです。新作「RAILWAYS―49歳で電車の運転士になった男の物語」は今年5月に全国一斉ロードショー。映画の舞台として、故郷として島根に熱い思いを寄せる錦織さんにお話を伺いました。
平田(現出雲市)の出身ですが、高校生の頃は伝統やしきたりに縛られた故郷がうっとうしくて、早く出て行きたいと思ったものです。転機は故郷を舞台にした『白い船』。良い面も悪い面も含めて島根に誇りを感じられるようになりました。今後も県内各地で映画を撮り続けたいと思っています。
出身地だから特にというわけではなくて、島根の宝が半端じゃないから。そして人との出会い…。島根には実に郷土愛の強い方がいらっしゃるんです。
例えば新作の『RAILWAYS』。最初は周囲から大反対を受けましたが、「沿線住民の足として一畑電車をなんとか守りたいから、僕たちが全身全霊をかけて応援する」と行政の方々が骨を折ってくださいました。9割が反対する大変な状況でしたが、「大切なことは大切」と信念を貫き通す皆さん。こういう行政マンがいることにビックリしましたね。
同様に立場や職種を越え、力を貸してくださった人たちは誰もが一本筋が通った人たち。すごい人がいる島根だから、僕はここで映画を撮り続けるんです。
構想を抱き始めたのは、一畑電鉄の廃止論が大勢を占めていた10年前。電車の利用者は車の運転免許を持っていない学生さんやお年寄りさんですから、このままではいけないと思ったんです。
そこで日本民営鉄道協会や全国の民営鉄道会社を取材。全国の約7割の民営鉄道が赤字だということや、一畑電鉄は財務的には上の方で、先進的な取り組みを行ってがんばっていることも知りました。そういう事実を見ずに、赤字だから廃止という考え方はおかしい。交通弱者の生活形態に沿うように努力や工夫をしないのは、多くの人が物質的な豊かさのみを追っているからだと思ったんです。それで、本当に価値あるものは何かを問いかけられるような映画を作ろうと決めたんです。
ある日、宿泊所の近所にあるスーパーから帰ってきた本仮屋ユイカさんが面白い話をしてくれました。「花を買おうとレジに並んだところ、行列が一向に進まなかったんです。
原因は、買い忘れの商品を探しに売り場に戻ったお客さん待ちでレジが停止していたため。周りのお客さんは不満を言うどころか、仕方ないねと雑談していらっしゃった。数分後にレジが再開したら、前に並んでいたおじいさんが順番を代わってくれたんです。『お嬢さんは花一輪で、わしはたくさん買い物してるから』。
私は一体、どこにいるんだろうと思いました」と信じられない風。平田では日常の光景だけど、都会ではファンタジーなんですね。
はい。全国200館以上で上映です。本作のように、オリジナル作品が全国発信されるのは珍しいことです。今年は島根発見、発信元年の輝かしい年になれば嬉しいです。
ブランドとはその地の伝統に敬意を持ち、価値を込めてこそ生まれるもの。おこがましいのですが、僕は映画の世界で描いた世界が新たな島根ブランドになれば嬉しいです。
みんなの心が豊かになれるようなブランドを。それから「おかしいことはおかしい」と苦言を呈さざるをえないこともあるかもしれませんね。奥ゆかしい平田人だから嫌だけど…(笑)島根のことを思えばそれも僕の使命かと。
「島根は知られてないけど、ここはいい所で私たちは豊かで幸せ」とのぼせあがって自慢する島根人が増えることを願って…。